たしかに数年前までは「敷金返還トラブル」による訴訟が増えていました。悪質な入居者対策として「退去時のクリーニング代・修理費は敷金から差し引く」という特約が無効とされた判例も多く出ました。
部屋の中をカビだらけにして、そのまま退去する入居者は少なくありません。それでも賃借人が守られたのです。どんなに部屋を汚されても「敷金」を全部返さないといけない。大家さんが全部自費でメンテナンスをする、という理不尽がまかり通っていました。
この元凶の背景には、「少額訴訟制度」と「消費者契約法」があります。特に「消費者契約法」が問題でした。お互いに納得して交わした契約でも、入居者に不利な契約であれば無効にできる、という法律です。つまり、大家さんに有利な特約・条約は、はじめからなかったことにされてしまうのです。
まるで「後出しじゃんけん」です。入居するとき約束したことを、退去するときは簡単に反故にできるのです。この法律で守られた「後出しじゃんけん」で、多くの入居者が部屋を汚したまま退去しました。1 円も払わずに約束を破ることが法律で許されていたのです。
それで多くの大家さんが泣き寝入りしていましたが、さすがにこのような理不尽な状況は長くは続きません。平成 23 年に最高裁判所からこの「後だしじゃんけん」を否定する判例が3件出されました。
このとき問題になったのが「敷引き特約」です。通常の損耗とか経年劣化関係なく、「住んだ年数に応じて、一定の割合を敷金から差し引く」という関西地方に多い特約です。
最高裁判所がこの特約を有効と認めました。これ以降は、すべてではありませんが、「後出しじゃんけん」が否定されています。
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