具体例を挙げます。たとえば、「オレンジジュースを飲みたい」と言っている人がいるとします。その人にトマトジュースを飲ませるにはどうしたらいいか?という問題です。
人が自分で意識しているニーズを「顕在ニーズ」といいます。この場合の「オレンジジュースを飲みたい」が「顕在ニーズ」です。この人が自覚しているのはオレンジジュースを飲んで「おいしい」と感じたい、ということだけです。
だから、いくら「トマトジュースもおいしいよ」と言って勧めても「大きなお世話」なのです。この人が今「おいしい」と思えるのはオレンジジュースだからです。
しかし、人には自覚していない「本当のニーズ」が心の奥に潜んでいます。「オレンジジュース」を欲しがっているときには押さえ込まれている気持ちです。たとえばこの人は「いつまでも若く、きれいで、健康でいたい」と思っているかもしれません。
心の奥に潜んでいるニーズを「潜在ニーズ」といいます。普段はそれほど意識していないので、今は「顕在ニーズ」に押さえ込まれて「オレンジジュース」を選択しています。
もしこのような「潜在ニーズ」を持っている人に、つぎのような言葉をかけてあげたらどうでしょう?
「トマトのβ-カロテンは皮膚の奥のシミを減らすからアンチエージングに効果的ですよ」
「リノール酸は脂肪を燃焼させるから、トマトはダイエットに最適だよ」
「リコピンの抗酸化作用は高血圧や動脈硬化など、生活習慣病の予防になるよ」
ほとんどの人は「潜在ニーズ」に訴えられると心を動かします。この場合、自分からオレンジジュースのネガティブなところを見つけます。
「オレンジジュースはカロリーが高いから飲みたくない」
と、本気で思い込みます。さっきまでの「オレンジジュースを飲みたい」という気持ちを心の中で自ら整理しようとして自分に言い聞かせるのです。これを心理学で「認知的不協和の解消」といいます。
賃貸物件を探している人も同じです。「新築の広い部屋がいい」というのはあくまでも目先の「欲求」です。その先にニーズはありません。なんとなく「新築の広い部屋」なのです。
心の奥底で「おしゃれな生活」「ゆったり過ごす空間」「友達と楽しく過ごす時間」を求めているかもしれません。その「潜在ニーズ」に訴える部屋を見たら、「新築の広い部屋」は関係なくなるでしょう。無意識に「顕在ニーズ」を消し、「古くても住みたい部屋」に惹かれます。つまり認知的不協和を解消するわけです。
だから、「入居者のニーズに合わせる」といっても、合わせるのは「顕在ニーズ」ではなく、「潜在ニーズ」です。
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