営業活動や看護・介護の現場などで相手との信頼関係を構築することを「ラポール形成」といいます。「ラポール」とは「橋を架ける」ことを表すフランス語で、そこから転じて「心を通じ合わせて信頼関係を構築する」ことを意味します。
「ラポール形成」では、相手を肯定し受け入れることが大切です。心の底から本気で相手を肯定し、受け入れなければ「ラポール形成」することはできません。
「肯定し、受け入れていること」を相手に示すために「オウム返し」をする営業マンがいます。営業テクニックとして「オウム返し」を「ラポール形成」のテクニックとして指導している組織もあります。
【相手】私、自分の頭で考えない人が嫌いなんです。
→ 【営業マン】自分の頭で考えない人が嫌いなんですね。
【相手】そういう人と話しているとすごくイライラするんですよ。
→ 【営業マン】すごくイライラするんですね。
【相手】あなたもオウム返しばかりしないで自分で考えて会話してください。
→ オウム返しばかりしないで自分で考えて会話してほしいんですね。
この「オウム返し」は、相手と言動を合わせることによって親近感をもたせる「ミラーリング効果」という心理現象を利用したテクニックです。自分の言葉が復唱されることで「肯定された」「受け入れられた」と相手が感じて「ラポール形成」がうまくいくと言われています。
ただ上記の会話のようにテクニックとして単純に相手の言葉を繰り返していると「バカにされている」「聞いているふりをされている」と感じる人も少なくありません。事実、私は「オウム返し」を多用する人を信用できません。だから本気で相手の言葉に同調していないときは「オウム返し」を使うべきではありません。
人と会話をするときは、まずは相手の気持ちや見地を理解することが大切です。だからもし理解するのが難しい、同調しづらい、と感じたら質問するようにして、納得できたら自分の言葉にして確認するようにしましょう。
【相手】私、自分の頭で考えない人が嫌いなんです。
→ 【営業マン】それって、具体的にどんな人ですか?
【相手】たとえばオウム返しを繰り返すような人はイライラします。
→ 【営業マン】なるほど、考えなしに人の言葉尻を繰り返して会話する人ですね。
【相手】オウム返しされると、何だかバカにされている気持ちになるんです。
→ 確かにちゃんと聞いてもらっていない気がしますよね。
人は目の前の相手が「信頼できる人」であるかを、言葉だけでなく表情やしぐさなどから無意識のうちに読み取ろうとしています。だから、どんな営業手法でも単純に考えないで使うと底が割れて逆効果になります。営業マンが日頃から心がけるべきなのは、小手先のテクニックを身に着けることではなく、やはり「人間力」を高めることだと考えます。
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