私は最近、ちょっと気になった本はネットで買うことが多くなりましたが、やはり現金ではないとはいえ、「お金を払う」という行為には少し緊張感を伴います。商品を「カート」に入れて「購入する」のボタンを押し、買い物を終えるとようやくその緊張感から解放されます。
そのあと画面を見ると「いっしょによく購入されている本」が並んでいます。「クロスセル」とは頭ではわかっていても、先ほど注文した本と合わせて読むと知識が深まりそうな気がして「ついで買い」をしてしまいます。
人は緊張(tension)の度合いが低減(reduction)すると気が緩んでしまいます。校長先生が「家に帰るまでが遠足です」をくぎを刺していたのはそのためです。これを「テンション・リダクション効果」といいます。
気が緩むと、いわゆる「財布のひも」も緩みます。マーケティングでは、これを利用します。
たとえば、あるお店で「焼肉定食」を注文したとします。注文を終えて少し緊張感が緩んだところで店員さんが、「ごいっしょにキムチはいかがですか?」というクロスセル。続けて、「プラス50円でワカメスープをカルビスープに変更できます」とアップセルに持ち込む、という手法はハンバーガー店やラーメン店でも行われています。
スーツを買いに行って、あれこれ試着し、ようやく購入する1着を決めてホッとしたところで、「2,000円のシャツストッパーがスーツ購入のときでしたら500円でつけられます」とか、「スーツをお買い上げの方は、ワイシャツ、ネクタイ、ベルトを半額でご購入できます」というような「アンカリング効果」との合わせ技もよく見られます。
アップセル・クロスセルの営業手法だとは頭ではわかっていても、私自身も本当によく「ついで買い」をしてしまいます。「家に帰るまでが買い物」ですので、せめてお店を出るまでは緊張感を保って、「気」も「財布のひも」も緩めないようにしたいと思います。
←prev.【No.47】もともと人が持っている「思い込み」が錯覚を引き起こす