18世紀のフランスの思想家ドゥニ・ディドロはあるエッセイの中で、友人から「新しいガウン」をプレゼントされ、今まで使っていた「古いガウン」を捨てたことを後悔しています。「新しいガウン」に合わせて、部屋の中の家具や装飾品などをすべて変えてしまい、逆に居心地が悪くなってしまったからです。
人は何か新しいモノや価値観を取り入れると、すべてをそれらに合わせて統一させようとする心理が働きます。たとえば、新しい趣味を始めると道具やウェアなど関連グッズをそろえたくなったり、シリーズの漫画などの単行本を一冊買うと全部そろえたくなる、というような心理です。
このような心理現象を「ディドロ効果」といい、ビジネスの様々な場面で応用されています。たとえば、洋服や家具を統一感のあるコーディネートでセット販売したり、書籍やフィギアなどをシリーズ化して販売することで、アップセル・クロスセルを図ることができます。
また、食品や電化製品などでも、一度ファンになるとそのメーカーやブランドの商品しか購入しなくなる、という人もいますので、何か主軸になる商品を最初に安く提供することで、他の商品も売りやすくなります。
このように人が統一感を求めるのはアイデンティティを保とうとする本能から来ていると言われています。統一しないと自己表現が不完全だと感じてモヤモヤしてしまうのだそうです。
ディドロが「古いガウン」を捨てて後悔したのは、おそらく「新しいガウン」に合わせて統一した「新しい部屋」が、本来のアイデンティティと違うと感じたからです。ただ、新しいモノを提供されたことが、他のモノを購入する意欲につながったことは間違いありません。
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